共通章 第1話 クライト 「もうすぐ日も落ちるので、今日はここまでですね」 クライトさんのその言葉で各々が野営の準備を始める。 リリア 「それじゃあ、私が夕飯を作ってあげるわ」 カイ 「えっ!?」 クライト r...」 セシル 「……それ、大丈夫なの?」 リリア 「失礼ね、私はこれでも炊事(すいじ)スキル持ちよ」 炊事スキルとは生活スキルの内の一つで、日々の生活で家事を行っていれば必ず覚えられるスキルである。 因みに生活スキルはレベルによるランクがあり、下位から初心者、新人、一人前、中堅、達人、レベルMAXで超人と呼ばれる。 達人、超人のクラスに到達するには並々なら経験と努力が必要だ。 リリア 「腕によりをかけて料理してあげるわ」 異空間収納から取り出した長机に、魔道具のコンロ、フライパンなどの調理器具や調味料、料理に使用する水が入ったポット、食材を並べ置く。 そして最後にメインディッシュの高級食材、飛龍(ワイバーン)の肉を取り出した。 カイ 「美味そうな匂いだな」 野営のため周囲の安全確認をしていたカイが、料理の匂いに釣られて近寄ってきた。 リリア 「ふふっ、完成よ!」 人数分の木製プートにワイバーンのローストと黄金(おうごん)トマトのスープを盛り付けてパンと一緒に配る。 リリア 「さあ、召し上がれ」 オネスト 「こ、これは一!」 セシル 「……美味しい…」 カイ 「んめェ!」 クライト 「これはもしやワイバーンの肉では?」 セシル 「…討伐難易度Aクラスの高級食材」 オネスト 「こんな高級食材、頂いていいんでしょうか?」 リリア 「いいの、いいの、旅のお礼だわ。また手に入れればいいだけの話だし」 クライト 「そんな簡単にワイバーンが手に入るとは思いませんが…」 セシル 「……うん、それに、ワイバーンを1人で倒すのはムリだと思う」 オネスト 「それにしても、高級食材が扱えるということは…」 オネスト 「リリアさんの炊事スキルは、"達人"ですか」 リリア 「ふふ、聞いて驚きなさい。私の炊事スキルはMAXの"超人"よ」 セシル 「…聖女が炊事スキル、超人?」 リリア 「聖女にも色々あるのよ」 カイ 「おかわり!」 リリア 「はいはい」 カイ 「クライトの飯もうめェけど、リリアの飯は何か疲れがとれるな」 リリア 「疲労回復と体力回復を付与したからだと思うわ」 クライト 「料理に付与魔法ですか?」 セシル 「……普通はできない…」 リリア 「聖女の力じゃないかしら?」 セシル 「…なんで疑問形?」 リリア 「私自身、あまり自分の力のことをよく知らないのよ」 リリア 「まあ、知ったところで、自分の能力だもの。何に使うかは私自身が決めるわ」 クライト 「リリアさん……あなたは…」 カイ 「は一食った、食った」 カイ 「それじゃ、今日は誰が夜番する?」 クライトさんが何か言いかけたところで、食事を終えたカイの声が彼の言葉を遮った。 悪気は無いと分かっている。けど、 セシル 「…カイは空気読まなさすぎ…」 その通りだと思う。 リリア 「ホーリーエリア」 足下に淡い金色の魔法陣が浮かび上がると、それは野営場所を包むように広がり銀の粒を舞い散らせて消えた。 リリア 「これで夜番は少し楽になると思うわ」 クライト 「今の魔法は?」 リリア 「ウェヌス王国に張ってた結界の縮小版よ。これで魔物は近寄れないわ」 セシル 「…魔物が嫌う神聖な気……」 クライト 「この結界も魔獣の時のように、触れた魔物は消滅するんですか?」 リリア 「ええ」 セシル 「…魔物が嫌う神聖な気……」 クライト 「この結界も魔獣の時のように、触れた魔物は消滅するんですか?」 リリア 「ええ」 オネスト 「この結界のお陰で、ウェヌス王国には魔物や魔獣の被害が一切ないのですね」 カイ 「聖女ってすげェな」 リリア 「でも、動物と人間には効果がないから、結局、夜番は必要なんだけどね」 セシル 「…夜番…眠い、…ムリ」 カイ 「ここは公平に……」 カイ 「クジ引きだろ!」 カイは自分の異空間収納からクジを取り出した。 リリア 「カイの異空間収納には何が入ってるのよ」 セシル 「…容量の無駄遣い……」 クライト 「何度言っても聞きませんから」 こうして、カイが異空間収納から取り出したクジで今夜の夜番が決まった。 リリア 「んっ……ふああっ」 リリア 「……眠れない…」 リリア 「……………眠れない…」 初めての一人旅だからだろうか、寝入ってからそんなに時間が経っていない気がする。 すっかり目が冴えてしまい眠気が遠のき、一度テントの外に出る。 見事、カイのクジ引きで当たりを引いた人物が、焚き火の前の丸太に座っている。 リリア 「どうしようか……」 ◆夜番の人物に話しかける →クライト好感度up ◆テントに戻る →通常 ◆夜番の人物に話しかける リリア 「……クライトさん」 クライト 「…眠れないんですか?」 リリア 「高揚(こうよう)してるのかもしれないわ…」 クライト 「高揚、…ですか?」 リリア 「ええ、やっと自由になれたから」 1人分程度の間隔を空けてクライトさんの隣に座る。 クライト 「聖女とは優雅な生活をしているものだと思っていましたが…」 リリア 「他の国での聖女はどうか知らないけど、私は聖女でも自活してたわ」 リリア 「まあ、貴族連中から疎(うと)まれていたのもあると思うけど」 クライト 「聖女が自活ですか?」 リリア 「ええ。良かったことと言えば、衣食住の住ぐらいよ」 リリア 「あとは、毎日のようにある無茶ぶりに応えてたら、生活スキルが全てレベルMAXになってたわ」 クライト 「聖女とは国を繁栄に導く存在では…」 クライト 「ウェヌス王国には神罰が下るでしょうね」 そう言えば、カイが話を遮る前、クライトさん…何か言いかけてたような。 リリア 「…クライトさん、あの…」 リリア 「あの時、何を聞きたかったの?」 クライト 「あの時とは…カイが話を遮った時のですか?」 リリア 「ええ」 クライト 「大したことではないんですよ」 クライト 「ただ…」 クライト 「特別な力を持てば、その分、周りには様々な目で見られる」 クライト 「…あなたは嫌にならなかったのかと思いまして」 リリア 「それは…」 ──何度も嫌になった。 特に幼少の頃、新たな聖女として国民から期待を受け、勉強漬けの毎日に耐えきれず何度も教会から逃げだした。 その度に、当時の師匠…神官長にぶん殴られて連れ戻されたけど…。 彼女は私のことを、そこらにいる普通の子供のように接してくれた。 そんな心の支えもあったからか、なんだかんだで今まで聖女としてやってこれたんだと思う。 リリア 「もちろん、嫌になったことはあるわ」 リリア 「けど、こんな私を救ってくれた人、…心の支えがあったから」 リリア 「クライトさんもそうでしょう?」 クライト 「…そうですね」 リリア 「私を警戒するのも、2人が大切だからよね?」 クライト 「気づいていたんですか?」 リリア 「育った環境がそんなんだったから、人の感情には少し敏感なのよ」 クライト 「…私はその感情や思考を読み取ることができる」 クライト 「と言ったら?」 リリア 「!」 クライト 「…怖い…ですよね」 リリア 「え?」 クライト 「え?」 リリア 「どこが?」 クライト 「…少し手を借りても?」 リリア 「?」 ためらいなく右手を差し出すと、クライトさんは私の手を片手で添えるようにして触れる。 クライト 「…これは……」 リリア (…これって、もう私の感情や思考が読み取られてるってこと?) リリア (国のことより自分の利益のことしか考えない貴族連中が、いかにも欲しがりそうな能力ね) リリア (でも……好きな人ができたら相手の好みとか分かったり、変な詐欺に編されなさそう) クライト「 変な詐欺に関しては、私が賑されなくてもカイが賑されてくるんで意味がないんですよ」 クライトさんが、私の手をそっと放した。 リリア 「納得だわ」 リリア 「って…!これが、クライトさんの言ってたカ?」 クライト 「ええ」 クライト 「触れたものの感情や思考を読み取る能力です」 クライト 「それにしても、リリアさんはカイと似ていますね」 リリア「えっ」 リリア 「ど、どこらへんが?私はあんな単純バ…素直じゃないわ」 クライト「あなたの言う通り、カイは見た目も中身も単純バ力です」 リリア 「…そこまでハッキリ言ってないけど」 クライト 「私の力を目の当たりにした時も、"すげえー!"と目を輝かせて言ってくれました」 リリア 「安易に想像できるわ」 クライト 「その時のカイの感情と思考は、発した言葉と全く同じです」 リリア 「?」 クライト 「つまり、一切、負の感情が伝わってこなかったんですよ」 リリア「負の感情?」 クライト「緊張、恐怖、恨み、嫉み、憎悪…など様々です」 クライト 「大抵は私のこの力のことを知ると、緊張や恐怖の感情を抱く者が多い」 クライト 「ですが、カイにもあなたにも、それが一切なかったんです」 リリア 「…それじゃあ、セシルは?」 クライト 「彼は特殊ですね。会話を面倒くさがるような奴なので」 クライト 「逆にこの能力で会話をしているようなものです」 リリア 「どれだけ面倒くさがりなのよ」 クライト 「なので、私の力に対して彼が負の感情を抱くことはなかったです」 リリア 「クライトさんが私を警戒していた理由(わけ)が分かったわ」 リリア 「そりゃあ、そうよね。私が聖女で善人に見えても、実際はそうじゃないかもしれない…」 リリア 「人の本質なんて、そう簡単に分かるものじゃないもの」 クライト 「すみません」 リリア 「でも、夕飯の料理は食べてたわよね?」 クライト 「実は…私も"達人"ですが、料理スキルを持っています」 リリア 「冒険者が料理スキル、達人?」 リリア 「いや、私が言うのも何だけど…」 クライト 「私の場合は、やむを得ない事情がありまして」 クライト 「それに、あのニ人に料理を任せたらとんでもない事になりますから」 リリア 「確かに…」 リリア 「でも、それで警戒していた私の料理を口にできたのね」 料理スキルの“達人"に到達すると、"先見毒味(せんけんどくみ)"と呼ばれるスキルを覚える。 身体に害のある異物を匂いで感知することができるのだ。 クライト 「さて、これで私の話は終わりです」 クライト 「…まだ眠くはないようですね」 リリア 「少し眠くはなってきたんだけど……まだ、ぐっすり眠れそうにないわ」 クライト「それでは、ホットミルクはいかかがですか?」 クライトさんは異空間収納からポットと木のコップを取り出すと、火の魔法を使ってポットを灸った。 リリア 「はあ…、私も聖属性魔法以外を少しでも使えたら良かったのに…」 クライト 「聖属性を持つと、他属性は全く使えませんからね」 クライト 「どうぞ」 ホットミルクを入れてくれた木のコップをクライトさんから受け取る。 リリア 「ありがとう」 リリア 「そう…だから、何かと魔道具に頼らないといけなくなるのよね」 ホットミルクをーロ飲むと、気づかないうちに溜まっていたストレスが解(ほぐ)れていくような気がした。 リリア 「美味しい…」 リリア 「ありがとう、クライトさん。これで今夜はよく眠れそうだわ」 クライト 「それは良かったです」 警戒を解いてくれたからか、クライトさんは出会った当初の愛想笑いではなく、自然な笑顔を見せる。 リリア 「!」 あのバカ王子より、よっぽど王子様みたいだと思う。 不意に笑うので、ドキッとした。 ホットミルクを飲み干し、彼にコップを返してその場から立ち上がる。 クライト 「明日もよろしくお願いしますね」 リリア 「こちらこそ、よろしく。…おやすみなさい」 クライト 「ええ、おやすみなさい」 テントへ戻ると、ホットミルクで温まった体のお陰か心地よい眠りにつくことができた。 ◆テントに戻る リリア 「邪魔したら悪いわよね」 リリア 「明日も体力を使うと思うし、安眠アイテムでも使って寝ましょう」 安眠シープさん と呼ばれるウェヌス王国の城下で大変人気な抱き枕らしい。睡眠、安楽効果の魔法付与が施された魔道具。 購入したのはいいが、使用する機会がなくて異空間収納に入れたままだった。 リリア (さっそく使用してみようかな) 愛らしい見た目の羊の抱き枕をぎゅっと抱き締める。 リリア 「こ、これは一!」 リリア 「気持ち良い………」 絶妙な柔らかさのする羊の抱き枕に、思わず感嘆の声が漏れた。 リリア (1人旅じゃ絶対、使えないやつだわ) リリア 「朝までぐっすり寝れちゃいそう…」 柔らかい羊の抱き枕を腕に抱き締めながら、再び験を下ろして眠りについた。