# 桃と太郎(仮)

# 概要

- 童話『桃太郎』を、中学生・高校生向けにリメイクしたいと考えています
- 『桃太郎』が子供向けの勧善懲悪のシンプルな童話であるのに対して、それの元ネタになった出来事風のシリアスな話にしたいです
- そのためファンタジー色は無し
  - 桃太郎は普通の人間で、桃から生まれた訳ではない
  - 鬼は存在しない。「鬼」とは、悪意のある人間を指す比喩
  - 犬猿雉も登場しない。後に人物が置き換えられただけ
- 「桃太郎」要素は薄く、言われなければ「桃太郎の元ネタ」だと気付かないくらいでちょうど良い

# ポイント

- 「人間 vs 鬼」ではなく、とある村における「村人 vs スラム街の住人」が争いの舞台
- 主人公は、スラム街に住む少年
- あらすじを 1 行でまとめると「治安の悪化を招くなどスラム街の存在が問題になっていたが、ある時そのスラム街の少年が領主に怪我を負わせたことがきっかけとなり、スラム街が一掃されることになった」という出来事の話
  - 「厄介なスラム街を領主が排除してくれたおかげで、村に平和が戻った」というのが、村に残る表向きの物語となる
  - 一方、スラム街の住人であった少年から見ると、領主や村人たちこそが『鬼』である。そんな鬼たちに立ち向かう少年の物語
- 「桃太郎の前日譚」であり、「勇気」と「旅立ち」がテーマ

# あらすじ

- 舞台は、とある村と近くのスラム街。
  貧困に喘ぐスラム街の住人は、度々盗みを繰り返したり、酷い時には強盗障害事件を起こしたりなど、度々問題を起こしていた。何一つ役に立たたないどころか、問題を起こすだけの厄介な存在であり、村人からは疎まれていた。
- 主人公は、そんなスラム街の少年。ガキ大将肌で、周囲の子供達からは頼られるリーダー的存在だが、裏を返せば、村人からは特に睨まれている存在だとも言える。今まではまだ子供だからと見逃されてきた部分もあるが、成長するに連れて次第に風当たりは強くなってきていた。
- 一方、村も決して平穏とは言えない。もともと豊かではない土地柄に加えて、領主が横暴で、高い税や気まぐれな暴力などに苦しまされていた。役人たちも同様で、横柄で賄賂も横行している。上を見れば信用できない領主や役人、下を見れば厄介なスラム街。その板挟みの中で「真面目に働いているのは自分たちだけ。何で自分たちばかりが苦労しなければならないのか」と被害者意識が根強い。
- その村には、ある少女が住んでいた。顔に目立つアザがあり、そのせいで周囲からは虐められ、家族からも冷遇されていた。アザ以外、少女に何か問題があった訳ではない。ただ、日頃からストレスが溜まっている村人には、ストレスの捌け口としての八つ当たり先が必要で、少女はその対象として都合が良かったのだ。
- ある日、近所の悪ガキに少女は唐突に突き飛ばされた。それ自体はよくあることだったが、その日は運の悪いことに、突き飛ばされて転んだ拍子に、視察と称して村内を物色していた領主の持ち物にぶつかって傷をつけてしまった。
  それに気づいた領主は怒り、少女を殴り飛ばした。普段から村人に暴力を振るうことは珍しくなかったが、その日はたまたま機嫌が悪かったのか、あるいは単に暇だったのか、執拗に何度も殴り続けた。
- どう見てもやりすぎだと思ったが、領主を止めに入る村人はいない。下手に止めると却って機嫌を悪くさせてしまうからだ。周囲に被害が飛び火してしまうのを避けるため、運が悪かったと諦め、領主の気が済むまで耐えるしかない。結局はそれが最も被害が小さくて済むと、経験上知っているのだ。
  しかし、さすがに度が過ぎているとも感じ始めている。もし暴力を受けているのが我が子だったら、身を挺して庇い、その暴力を自分が代わりに受けていただろう。しかし、今殴られているのは、特に親しい訳でもない迫害者の少女だ。そんな少女を庇って自分の身を危険に晒すのは、さすがに割に合わない。誰もがそんな風に思っていたのだろう、周囲には何人もの大人がいたにも関わらず、みんな遠巻きに見るばかりで、誰も止めに入ろうとはしなかった。
- 何か騒ぎになっているのを聞きつけて、スラム街の少年たちがやってきた。「騒ぎが起きているなら、その隙に何か盗めるかも」と考えて様子を見にやってきたのだ。村人同士でいくらケンカしようが、自分たちには関係ない。むしろ大暴れして屋台でもひっくり返してくれればありがたい。まだ食えるものが生ゴミ扱いされて廃棄されるかもしれないからだ。
  しかし、実際の騒ぎの現場を目にして、激しい怒りが湧いた。ケンカなどではない、それはただの暴力だった。普段から自分たちを見下している村人、そんな村人たちを見下している領主。金持ちは貧乏人を助けてはくれない。大人たちは子供を助けてくれない、強者たちは弱者を助けてはくれない。誰もが見て見ぬフリだ。そんな「ムカつく現実」を象徴するよう光景が目の前にあった。権力者である領主が無抵抗の少女に暴力を振るい、それを誰も止めようともしない。その光景に無性に腹が立った。
- 「やめろ！」少年は堪えきれずに叫ぶと、近くにあった石を拾って領主に投げつけた。頭に石を喰らってよろけた領主に、そのまま体当たりくらわせて突き飛ばす。倒れた領主に蹴りを入れながら、仲間が少女を助け起こしていることを確認する。そして、そのまま少女を連れて逃げた。
  村人たちは突然のことに驚いていたとは言え、やはり誰も止めることはなかった。「アイツを捕まえろ！」と領主が怒りを顕に叫んだが、その頃には、とっくに少年たちの姿はなかった。
- 少年たちは少女をスラム街に連れ帰り、拙いながらも手当てした。そして、どさくさに紛れて盗んできた一本のだんごを、みんなで分けて一緒に食べた。「美味しい」と言いながら弱々しく笑う少女は「ムカつく村のヤツら」などでは決してなく、自分たちの同類なのだと思った。「美味しい」と言いながら泣き崩れる少女の姿を見て、少年たちは改めてこの世の理不尽を呪った。
  翌日、少女を家に送り届けようと思ったが、少女は帰りたくないと言う。領主が自宅に乗り込んで来るかもしれないし、領主の不況を買ったことを知った両親から厳しく咎められるかもしれない。家に帰ったところで味方はいないのだ。それに比べたら、自分のために領主に立ち向かってくれた、ほんのわずかな貴重な食べ物さえ当然のように平等に分けてくれた、そんな少年たちの方が遥かに信頼できる。
  今後のことは分からないが、確かに今すぐ家に帰すのは危ないかもしれない。ほとぼりが冷めるまで様子を見ることにして、しばらく少女を匿うことにした。
- 一方、やられっぱなしで終わってしまった領主の怒りは収まらない。もし仮に冷静に怒りを沈めることができたとしても、「子供に負かされて怪我を負った上、そのままお咎めなし」という訳にはいかない。領主としての威厳に関わる。このまま放置すれば村人に舐められ、調子に乗って反抗してくる者も出てくるだろう。「刃向かった者には厳しい処罰を下す」というのは領主の責務でもある。
  しかしだからと言って「たかが子供一人罰するために、大人数の役人を動員して捜索させる」というのもやりすぎで、さすがに外聞が悪い。対応の仕方を間違えれば「子供相手にムキになる幼稚な領主」と、それはそれで笑い者にされ兼ねない。
  そこで領主は、処罰の対象をスラム街に向けることにした。スラム街の連帯責任とし、この機会にスラム街を一掃することにしたのだ。
- スラム街は窃盗や不衛生など様々な問題の原因になっており、村人からも「どうにかしてくれ」と度々陳情されていた。村人の陳情などどうでも良かったが、「身をもって経験したので、今後の村の治安を守るためにも、これ機にスラム街を一掃する」と言えば大義名分が立つ。もはや少年のことは大して重要ではない。堂々とスラム街のヤツらを好きなだけ痛めつけられる機会を得たと思えば悪くない。
- これは村人としても渡りに船だった。今回の件は、正直なところ領主の方に非があっただろう。怪我を負わされたとは言え、それは領主の自業自得だし、領主が殴った少女の方が明らかに重症だった。日頃の恨みもあり、領主に同情する者はいない。「良い気味だ」というのが村人たちの正直な気持ちである。
  しかしそれはそれとして、スラム街を厄介払いしたいとも常々思っていたのだ。きっかけが何であれ、大義名分が何であれ、スラム街を排除してくれるというなら反対する理由はない。
- いつのまにか「少女は、少年たちに連れ去られた」ことになっていた。もし仮に「少女は少年たちに助けられた」とするなら、少女は少年たちの仲間として括られてしまう。村とスラム街の対立する状況下で「スラム街の味方をする者」とは、即ち「村の裏切り者」という意味になる。そんなことになれば、少女の家族たちもスラム街の道連れに村から追放され兼ねない。この村で生きていっくためには「少女はスラム街とは一切関係ないただの被害者」でなければならないのだ。「少女は領主から逃げたのではない。少年たちに無理やり連れ去られてしまったのだ」というのは咄嗟に出た作り話だったが、そんなものに自分たちの命が掛かっている。少女の両親は、少女に執拗に暴力を振るった領主に対して「不出来なウチの娘をしつけていただきありがとうございました」と感謝を述べ、少女を救った少年たちのことを「領主様に危害を加えた不届き者」とこき下ろした。少女を心配したためではなく、自分たち身を心配して「どうか娘を助けてください」と涙ながらに訴えた。
  事件の顛末を知る村人からすれば滑稽な作り話に過ぎなかったが、それを指摘する者はいない。「勇敢な少年たちが横暴な領主から少女を救い出した」なんて真実を言えるはずがないだろう。領主の怒りの矛先がこちらに向いてしまうだけだ。それに、以前から少年たちと少女が仲が良かった様子はないから、少女は本当に巻き込まれただけだろう。
  そしてまた、領主もこの作り話を利用することにした。少女のことなどどうでも良かったが、「痛めつけた少女を探して出して、もう一度痛めつけようとしている」などと噂されるよりは、「誘拐された少女を捜索している」という話にした方が都合がいい。少女の身を案じる余り、捜索や尋問に熱が入るのは仕方ないことだ。スラム街の連中を好き勝手に殴れる口実が、より確かなものになった訳だ。「正義」はこちらにある。
  「少女は、少年たちに連れ去られた」そんな話は誰も信じていなかったが、村の中ではそれが共通見解となった。
- スラム街と一掃が始まった。とは言っても、それは簡単なものだった。スラム街には健康な大人などいない。老人や病人・怪我人など、大して動けない者しかいないのだ。抵抗できるような力は無い。領主が連れてきた役人たちが、気まぐれに住人を殴り飛ばしながら、スラム街の住居を破壊していく。抵抗すら出来ない住人たちは、ただただ諦めたようにその光景を眺めるだけだった。
- 領主は早々に興醒めしてしまった。抵抗されないのは楽ではあるが、あまりに張り合いがない。痛めつけても縮こまるばかりで、逃げることすらしない。これでは案山子を殴っているのと変わらない。
  住居を壊すのが楽しかったのも最初だけ、すぐに単純作業となってしまった。どこもまともに家具と言えるようなものもなく、ゴミにしか見えないようなものを壊しているだけ。住居も柱らしきものを蹴るだけで簡単に崩れていく。大切なものを壊すから意味があるのであって、ゴミを片付けるだけならただの掃除だ。領主自らスラム街の掃除をするなど、馬鹿らしくてやってられない。あまりに張り合いがない。
  しかしだから言って、中途半端に辞める訳にもいかない。「誘拐された少女の捜索」という名目があるせいで、少女の両親も着いて来ているからだ。面倒だが、このまま手ぶらでは帰れない。
- 「やめろ！」そう言って少年たちが現れた。傍に少女の姿もある。領主は「そう言えばこいつらの顔も名前も知らなかったな」などと思いながらも、少しだけやる気が出た。こいつらさえ捕まえてしまえば成果は充分だ。面倒なスラム街の撤去は、引き続き役人どもにやらせればいい。
  少年たちはこちらを睨んでいる。まだまだ世の中を知らないガキだからか、ガキ特有の反抗心はあるようだ。無抵抗な老人よりはまだ張り合いがある。それに、改めて見れは貧弱な身体をしている。前回は不意打ちを喰らってしまったが、正面から対峙すれば簡単に捻り潰せそうだ。しかも今回は役人も連れているため、わざわざ自分で相手をしてやる必要すらない。もう仕事の終わりが見えたと言って良い。さっさと終わらせて酒でも呑もう、そんなことを考える。
- 「娘を、娘を返して」少女の両親が悲痛そうに叫ぶ。「連れ去られた娘を取り戻しに来た」という名目なのだから、そう口にしない訳にもいかなかったのだろう。複雑そうな表情を浮かべながら、まるで娘の身を案じていたかのような言葉を口にする。
  しかし、当の少女は拘束などされていない。それどころか、両親の表情を見た少女は「ヒッ」を小さい悲鳴を上げて後ずさっている。あまつさえ、少年たちに助けを求めるように、陰に隠れようとする。
  「やれやれ」と思いつつも、領主は「さあ、その娘を解放するんだ」と言葉を続けてやる。話が進まないと面倒なため、茶番を進行させてやった。
- 「何なんだ？こいつらは一体何を言っているんだ？」と少年たちは戸惑った。少女を痛めつけていた張本人が、少女を助けに来たと言う。心配しているらしい両親の姿を見て、少女が怯えている。どうやら自分たちが悪者らしいが、そんな自分たちに少女は助けを求めている。何が起きているのか分からない。
  村の方では「少女は、少年たちに連れ去られた」ということになっているが、当の本人たちはそんなことを知らないのだから仕方ない。言葉は通じているが、何を言っているのか分からない。まるで、妖怪か何かが化けていて、人の言葉を使って騙そうとしているかのようだ。何が起きているのか分からないが、大人たちに悪意が満ちていることは分かる。少女を守らなければならないことは分かる。
- 恐怖に逃げ惑うのではなく、少年たちは薄気味悪いものでも見ているかのような、そんな表情を浮かべていた。そんな目を向けられていることに、領主は腹を立てた。こいつらと話が通じるとは思えないし、茶番はもう充分だろう。「もういい。面倒だ、さっさと捕まえろ」と役人たちに指示する。少女を置いては逃げられないのか、少年たちはその場で抵抗しているようだった。だが、大人と子供の体格差がある上、人数もこちらの方が多い。全員あっさり捕まった。
  「さあ、もう大丈夫だ」と少女に適当な声を掛ける。しかし「嫌だ、離して」と言うので、思わず殴って黙らせる。殴ってから「ああしまった、両親の目の前だったか」と一瞬思いはしたものの、気にせず何事もなかったように振る舞う。そのまま少女を両親に引き渡した。
  「無事で良かった」そう言うと両親は、少女は強く抱きしめた。……と言うよりは、下手なことが出来ないように、取り押さえたと言った方がいいだろう。少女は表情を失っている。
- 「何すんだ！やめろ！」少年の方はと言えば、拘束されたにも関わらずまだ踠き続けていた。しかし、非力な少年の力では拘束は解けない。領主は「威勢が良いな」と言いながら、今度は少年を痛めつける。少女の方は両親の手前あれ以上は殴れなかったが、少年の方に遠慮する必要はない。前回ケガを負わされた恨みもあるし、「領主への反逆」には罰することも必要だ。領主は機嫌良く少年を痛めつける。
  少年はすぐにグッタリして動かなくなった。残りの少年たちは、手を下すまでもなく、恐怖で何も言えなくなっていた。片付いてしまえば、あっけないものだ。
  「よし、引き上げるぞ」大半の役人はそのまま残してスラム街の解体を続けさせ、領主は数人の役人と共に少年たちを連行して帰ることにした。
- 少年は少しの間だけ気を失いはしたが、すぐに意識を取り戻していた。今は領主の屋敷に戻るため移動中らしい。この後、牢屋に入れられるのか処刑されるのか分からないが、この先碌なことにならないことだけは確かだ。屋敷に着く前に、急いでどうにかしなければならない。幸いなことに拘束は緩かった。気を失っていると思って油断しているのか、あるいは汚いスラムの人間にはあまり触りたくないだけかもしれない。気を失ったフリをしたまま様子を伺い、呼吸を整えながら現状を打破する方法を探す。
  途中で川を渡るため橋の上に来た時、少年は飛び起きた。体当たりして領主を川に突き落とそうとした。しかし、ケガだらけの身体が上手く動かない。足がもつれて転倒してしまう。目論見は失敗した。もう片付いたと油断していたところへ二度目の不意打ちが来ようとしていたのだ。それを理解した領主は「ははは……、本当に威勢が良いな、お前は」そう言って笑うと、少年を川に蹴り落とした。少年はなす術なく、下流へと流されていった。

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### 『桃太郎』の冒頭に繋がる

- むかしむかしあるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいました。
  お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯にいきました。
- お婆さんが川で洗濯をしていると、スーッと何か布切れのようなものが近くを流れような気がしました。川上で洗濯していた誰かうっかり何かを落としたのかもしれない、そんな風に思って当たりを見回しましたが、何も見当たりません。「気のせいかな？」と思いながら、ふと川上の方へ目を向けてみると、川岸に何か大きなものが浮いているように見えました。「んー？」と目を凝らしてみると、それは人のようでした。川を流されて来た人が、川岸の木に引っかかって浮いているようです。「た、大変！」と慌てて駆け寄りました。近くで見ると、まだ若い男の子のようです。お婆さんは四苦八苦しながらも何とかその男の子を川岸に引き上げました。
  急いでまだ生きているかどうか確かめようとします。川に浸かっていたため身体は冷たく、体温はよく分かりません。呼吸しているのか確認しようとしましたが、先ほどの奮闘で息が上がっているせいで、自分の心臓と呼吸の音がうるさくてよく分かりません。溺れていた人は水を飲んでしまっているという話を聞いたことがあるので、少年の身体を横に向けたり背中を叩いたりしてみます。
  「ゴボっ、ガハっ」少年が水を吐き出しました。「はあ良かったぁ、生きてた」とりあえずは安堵はしたものの、少年はまだ気を失ったままです。このままではすぐに死んでしまっても不思議ではありません。手当てするにも、とにかく家に連れ帰ることにしました。
- 「誰かぁ、誰か来てちょうだい」と声を上げていると、隣の家に住むお婆さんも洗濯にやって来たところでした。「なぁに騒いでんだい、うっさいねぇ」などと悪態をついて来たお婆さんでしたが、状況を把握すると、すぐに協力してくれました。口は悪いけど、頭の切り替えが早くて頼りになるお婆さんです。二人で協力して少年を何とか連れて帰ります。その後、お爺さんたちとも協力し、手当したり、着替えさせたり、風呂に入れて身体を温めたりと介助を続けた甲斐あって、少年は意識をとり戻し、無事に回復していきました。
- 今までよっぽど食糧事情が悪かったのか、最初は酷くやせ細っていましたが、食事を出せば出す分だけ美味しそうに食べるので、お婆さんたちは楽しくなってきました。「育ち盛りなのねぇ」などと言いながら、どんどん食事を与えるうちに、少年は逞しくなっていきました。「ほおれぇ、今日は良い鮭が獲れたぞ」近所の村人たちも入れ替わり立ち替わりで様子を見にやって来ては、そんな風にちょくちょく差し入れをしていきます。回復するに従って少年は明るく笑顔を見せるようになり、力仕事などを手伝ってくれるようになりました。「まだ治りきってないんだから無理すんな」といっても聞きません。何もしないのも落ち着かない様です。
- 身体がすっかり回復した頃、少年が改まって話はじめました。「命を助けていただき、本当にありがとうございました。みんな優しくしてくれて、本当にこの村が大好きです。でも、俺にはやらなければならないことがあるんです」
  救われたことには感謝してもしきれません。どうにかして恩を返したいとも思っています。この村についてから、少年の世界は大きく変わりました。みんな明るく協力的です。ここの村人たちはしょっちゅう口喧嘩もしていますが、それもこの村の活気を示す賑わいの様です。けたたましい笑い声や、喧嘩して泣き喚く子供の声。この村の喧しさが心地よい。今までの、あのスラム街での重苦しくてひっそりとした暮らしは一体何だったのか。まるで別の世界にでも迷い込んだような気分です。しかし、そんな幸せを感じれば感じるほど、スラム街に残してきた仲間とあの少女のことが気掛かりでなりません。みんなのことを置き去りしたまま、自分だけ幸せになる訳にはいきません。だから、スラム街がどうなったのか、自分の目で確かめに戻らなければなりません。
  お爺さんとお婆さんには「まだ怪我が治りきっていない」とか「そんな危険なことしてほしくない」とか、そんな風に何度も止められましたが、最後には「みんなを連れて帰っておいで。この村でみんな一緒に暮らせばいい」と、そう言ってくれました。もう迷いも恐怖もありません。碌な思い出もないあの村に帰るため、少年は旅の準備を始めるのでした。
- おしまい
