序章 第1話 ──大陸の2大強国の一つ、ウェヌス王国。 リリア 「今、 何とおっしゃいましたか?」 ミハイル 「リリア=ローゼンフィリア」 ミハイル 「今、この瞬間をもって、 お前との婚約を破棄させてもらう!」 神殿で祈りを捧げていたら、 突然、王宮に呼び出されて、 これだ。 リリア 「理由を聞かせて頂けませんか?」 ミハイル 「それはお前が一番よく分かってることだろう?」 リリア 「さあ…分かりません」 リリア (まあ大方、そこの大臣の娘にそそのかされたんでしょう) ミハイルの背に隠れて腰にすがりつく令嬢をちらりと見る。 見た目は可愛らしく護ってあげたくなるような女性だが…。 リリア (な~んか、きな臭いのよね) この国の国王陛下は現在、病により伏せていることになっている。 その陛下がいない今、王位継承権第一位のミハイルが現状この国の実権を握っていた。 だが、いかんせん頭(おつむ)が足りていないので、その実権を握ろうと画策(かくさく)する大臣の意図に気づかない。 ミハイル 「分からないのか?お前は本当にお飾り聖女だな」 リリア(誰がお飾り聖女だ!) リリア (聖女がどんな存在なのか、何をしてるのか知らないくせに) 聖女とは神に祈りを捧げ、その恩恵により授かる加護で国を繁栄に導く存在である。 また、国に神聖な結界を張り、魔物の侵入を防ぐ役割も担っており、王国領土各地への巡礼や騎士団と一緒に魔物討伐へ赴(おもむ)いたりなど年中、国のために働かなくてはいけない。 ミハイル 「お前には偽の聖女の疑いがかかっている。父上の病を治せないのがその証拠だ」 ミハイル 「それに加え、こちらのユリア嬢に行った酷い仕打ちの数々」 ミハイル 「婚約破棄は当然ながら、お前を国外追放とする」 リリア (陛下…この王子は次期国王には向いていないと思いますよ) 陛下が聖女にも治せない病に伏せているというのは、私と王妃様と神官長しか知らない大嘘である。 何故そんな嘘をついたのかというと、王位継承権を持つ二人の王子のどちらが次期国王に相応しいか見定めるためだ。 第一王子は言わずもがなこのミハイル、第二王子はこのバカ王子とは比べものにならないぐらい優秀なカイル殿下。 二人は同じ年齢だが、ミハイルは正妻、カイル殿下は側室の間に生まれた子だ。 陛下は療養という名の行楽、カイル殿下は遠方の領土へ自ら魔物討伐に、それぞれ国を離れている。 リリア 「お言葉ですがミハイル様、聖女がいなくなればこの国は終わりです」 リリア「それでも私を追放なさるのですか?」 ミハイル「ふんっ、聖女ならここにもいる。こちらの真の聖女、ユリア嬢がな!」 ユリア 「ミハイル様…ええ、私がいます」 ミハイルは自分の背後に隠れていた令嬢を愛おしそうに見つめていた。 ミハイル「ユリア嬢は神託により聖女と認められた。きっと、父上の病もユリア嬢の真の聖女の力で治るだろう」 ミハイル 「だから偽の聖女のお前などに用はない!国税の無駄遣いだ」 リリア「………そうですか」 ミハイル「第一王子ミハイルの名において、リリア=ローゼンフィリアを偽の聖女を語った罪で国外追放とする」 リリア (ったく…この国がどうなっても知らないんだから) リリア (神託で聖女と認められたからって、彼女じゃ直ぐに音を上げそうだけど…?) リリア 「それでは、すぐにでもこの国から出ていきましょう」 リリア (まあいっか!取り敢えず、このパバカ王子とは婚約破棄できたし) リリア (国外追放?喜んで!これで私は晴れて自由の身だわ) 私は元々、王国領土の辺境地域に住む貧乏貴族の家の生まれだった。 そんな私の人生が一変したのは、幼少の頃、聖なるカに目覚めてから。 両親とは名ばかりの親に半ば強引に神託を受けさせられ聖女に認められると、私は王都の教会へと売られた。 それからは、王子の婚約者となり、将来妃になるために必要な知識やマナーを強制的に身につけさせられ、聖女の力の使い方や仕事内容を叩き込まれて今に至る。 ずっと、王都から出たことがなく龍の鳥だった………、国外追放は私にとって旨味でしかなかった。 リリア 「私が居なくなった今、彼女の力だけでこの国を護れるといいわね」 リリア 「少し心配だけど、国外追放になったわけだし今を楽しみましょ」 リリア 「さよなら、ウェヌス王国。まずは、隣国に行きましょうかね」 婚約破棄と国外追放を言い渡されてから、すぐさま荷物をまとめて城下の住民達に気づかれないよう王都を出た。 そして、 この国がこの先、数ヶ月足らずで衰退の道を辿ろうとは誰もが思わなかっただろう。