昔むかし、平群の伊予ヶ岳に天狗が棲んでいしました。天狗は神通力で人里に舞い降り、 農家の納屋に置いてある米や、畑の野菜を盗む悪い奴でしたが、しかし村人たちは、 その天狗の祟りが怖いので我慢していたのです。天狗はそれをよいことに、ある夜、山の麓のある家に、 とんでもない要求を書いた紙きれを投げ込んだのです。 「今月の満月の夜、村で一番きれいな娘を伊予ヶ岳の下の天神社に連れてこい。 もし断るならば、儂(わし)の団扇で大風を起し、村中を吹っ飛ばすぞ。伊予ヶ岳の天狗より」 家の主は、びっくりして名主に知らせました。名主は、村一番の知恵者でしたから、 「天狗が団扇でくるなら、こちらも団扇で懲らしめてやるべぇ」と言い、天狗の物より三倍の大団扇を作ると、 伊予ヶ岳に登り、天狗に見せびらかしました。それを見た天狗は、名主の大団扇が欲しくなり、自分の物と取り替えたのです。 間もなくですが、得意になって大団扇を扇いでいた天狗が、山の天辺から舞い降りますと、 何と真っ逆さまに落ち、大怪我をしてしまったのです。天狗は団扇を人間の作ったものと替えたため、 神通力を失っていたのです。