深海亜綺羅が提督として着任する約18年程前の話 アオは大湊鎮守府の現提督である樫野拓海とは高校での同級生 同じ水泳部だったり帰り道が途中まで一緒だったりしたことでお互い気の知れた仲だった 海が好きで毎日眺めているその樫野の横顔を見て、何か胸の鼓動が大きくなるのを不思議に思っている毎日だった そんなある日、学生の間での噂で彼が高校を卒業すると同時に、遠く離れた海軍兵学校に進学しようと決めていることを知る 遠く離れてしまうことと、海軍に入って噂で聞く艦娘達を指揮する立場になることを決意していることを樫野から聞き、それまで漠然と考えていた自分の先のことを考えるアオ そんな折、全国の学生が高校在学中に密かに受けさせられていた艦娘適正で、運動神経や反射神経、勉学の優秀さにおいて高い適性判定をされていたことを思い出す 高校を卒業してからアオは大学に通っていたが、1年目の終わりに試しに受けた艦娘適正検査でA判定を受けたことを鑑みて、大学を辞めて艦娘になり、将来的に樫野の傍にいられるようになれないかと考える 艦娘になるために必要な行程の解説 訓練時代の加古のことを思い出す 優秀だけど少し眠そう でもいつも気に掛けてくれたこと 演習訓練でも庇ってくれたこと 加古が艦娘になった理由などを聞いて思ったこと またいつか加古さん 加古姐さんに会えると良いなと思いを馳せる そんな最中にサイレンが鳴り響き深海棲艦が近くの海に接近してきたことを知る 樫野に出撃すると言い執務室を後にする 自身を旗艦に 千代田 名取 駆逐艦3隻(未定)で出撃する 深海側の編成は 軽巡級2隻 駆逐級3隻の水雷編成 大した脅威じゃないと口にする千代田と駆逐艦達を衣笠が窘める 会敵し軽巡級と駆逐級を2隻沈めて順調に思われたとき駆逐の1隻が相手軽巡の魚雷を受け中破する 一気に浮き足立つ艦隊を衣笠が鼓舞し 残りの軽巡と駆逐を沈める 鎮守府まで雷撃を受けて中破した艦娘を曳航し 一息つく艦隊 油断しなきゃと口にする駆逐の1隻に その油断が命取りに成るんだと衣笠が静かに告げる 候補生時代に自身が加わって出撃した戦闘で 行方不明になった艦娘が居たことを思い出す あんな思いは二度としたくないと胸元を握りしめて固く誓う 半年前の訓練生時代 艦娘としての実戦を含めての訓練で艦隊に加わり出撃する衣笠 前線では無く後方支援だからと気を抜いている 目標海域中心部にて本隊が敵の連合艦隊と会敵する 本隊が敵の戦力の大部分を削ぎ圧勝ムードになりかけた中 連合艦隊からはぐれた敵の艦載機が後方支援の艦隊に目掛け突っ込んでくる その艦載機の攻撃をまともに受け艦隊に居た駆逐艦が大破させられる 大破した駆逐艦は推進器が使用できなくなりその場で沈んでいってしまう その駆逐艦は未だに見つかっていない 自分達の住む世界はいつでも死と隣り合わせであってちょっとした油断が轟沈に繋がることを考えた時 過去に加古と話していたときに言われたことを思い出す 「思い人を護るために戦う、それも立派な理由の一つさ。だけど、私達はいつ激しい戦闘の最中で、理不尽な命令や作戦で命を落とす…沈むかも分からないからさ。好きな人がいるなら、その人に思いは告げておくべきだよ。」と。 そんなことを思い出しながら鎮守府へと帰り着くと慌てて港まで迎えに来た樫野と会い、自分のこの思いは恋愛感情なのかどうか改めて考え始める。 そしてもしそうだったとしても、自分と樫野は時間の流れが変わってしまうんだと聞いていたことを思いだし、心中に激しい動揺が走り身を震わせる。 それから一ヶ月後のある日、鎮守府の談話室で駆逐艦達が噂話をしているところに遭遇する衣笠。 遠く離れた鎮守府で、とある艦娘とそこの司令官が結ばれたのだという そういえば人間と艦娘の間では正式な結婚は認められていないが、それでは艦娘があまりにも不憫になってしまうということで、ケッコン(仮)という制度が新設されたのだと聞いたことを思い出す それを思い出して、ふと自分ならと考え始めた時、すぐに樫野の顔を思い出す 自分ならと考え始めた時こんな真っ先に浮かんでしまう、やっぱり自分は樫野のことが好きなのかもしれないと自覚する でも自分は艦娘になったことで普通の人間である樫野とは見た目年齢の取り方が代わり、確か7年に1歳分の見た目しか歳を取らないのだということをまた思い出して胸に切ない気持ちが湧いてくる そんなことを思っていたとき、樫野が衣笠を見かけて声を掛けてきて、今すぐ執務室へと来るように告げられる 執務室へと来ると、衣笠は樫野からある事実を告げられる 最近津軽海峡付近での深海棲艦の出没頻度や動きが活発になってきて、大本営から戦力の拡充をするように申し伝えられたこと、そんな折りに大本営から直々に「一人で艦娘数人分の戦力と働きを有する者」を大湊に派遣することになったのだと。 衣笠が誰なのかと尋ねると、樫野は書類を見せて「赤城」という艦娘だと告げる 衣笠もその名前は聞いたことがあり、たった一人で敵の艦隊を相手取り制圧する剛の者であり『第一航空戦隊・一航戦の赤き風』といえば艦娘の中で知らぬ者はいないと樫野にも話す 衣笠はそんな艦娘がどうして大湊に?と尋ねると、樫野は聞いている話を始め、噂では「赤城はその轟く異名と他に追随を許さないほどの桁外れの戦果から誰も意見できる者や従える者がおらず単独で行動することが出来る特別待遇が認められている」と聞いていて、なんでも自分の目的のために日本の各地を転々としていた等と聞いていたと話す。 そんなことを樫野が話していたとき、執務室のドアがノックされて「失礼します」とよく通る声と共に赤城が姿を現す 初めましてと言いながら衣笠と樫野に向けて深々と丁寧に頭を下げる赤城 それを見て樫野は思わず敬語で「ようこそお越しくださいました」と挨拶を返す そんな樫野の様子を見て衣笠は何か嫌な気持ちが胸中に生まれる 思わず「どうして名高き一航戦の赤城さんがこんな大湊の鎮守府に来たんですか?」と問いただすような口調で言い放ってしまう 赤城は気にしない様子で「自ら志願してこちらに参りました、どのように扱っていただいても構わないので宜しくお願いします」と再度頭を下げる 部屋を出て衣笠は「貴方がどんなに凄い方だとしても、こちらでは着任したばかりの新任の艦娘ですから、私達の指示には従っていただきます」と言う それに対し赤城は「勿論です、私自身はそんなに大した者ではなく、ただ一生懸命戦って戦い続けてきた結果、何か持ち上げていただくようになってしまっただけで、自分はただの一兵卒ですから」と返答する それを聞いて衣笠は、聞いていた噂のイメージとはかけ離れているなと思い首を傾げそうになるが、執務室での樫野の赤城を見る表情を思い出して、また頭に血が上ってしまい突っぱねるように言い放ちその場を後にしてしまう 二日後、哨戒を兼ねた艦隊行動訓練で赤城も加わり出撃する 言っていた通りに旗艦である衣笠の指示に素直に従う赤城だが、その行動中の動作や周囲警戒用の艦載機を放つ立ち振る舞いなどを見て、その赤城の凄さを身を持って知ることになる 帰投し執務室で樫野に報告を始めようとする衣笠 報告をする前に樫野が「赤城さんと一緒に哨戒に出てみてどう?」とか「赤城さんは食堂でも結構食べるみたいで…」という赤城のことばかり聞かれ、さらに赤城「さん」と呼んでいることに憤懣が募り、「なんで赤城さんのことばっかり聞くの?」「普通は私達にお疲れ様が先じゃないの!?」とキツく当たり始める 衣笠の言葉を聞いて樫野はゴメンと謝る 樫野は赤城の行動の優雅さと容姿に目を奪われているんじゃないのかとイライラが募り始める 後日、衣笠が廊下を歩いている途中に樫野と赤城が何かを話している場面に遭遇する 赤城が事細かに分かり易く説明し、それを少し赤面しながらも笑顔で頷いて聞いている樫野の様子を見て、衣笠は我慢が出来なくなり、樫野から離れた赤城の前に立ちふさがり「どういうつもりですか?」と詰め寄る 何のことか分からない様子でいる赤城に、秘書艦は自分なのにどうしてあんなに親密そうに話しているのかなどと、それが意味が通ってない質問だと気付きつつも止められず聞いてしまう それを聞いて赤城は、自分が知っていることを樫野提督に教えて差し上げていただけなのだと答える それも半ば分かっていた答えなのに、さらに衣笠は、自分は秘書艦なんだから一緒に居るときに説明してくれればなどと支離滅裂な問答になっていく その途中で赤城が、衣笠が目に涙を溜めていることを指摘し、それに気が付いた衣笠は居ても立っても居られずにその場を後にしてしまう 同日の午後、衣笠が訓練から戻ると赤城が執務室から出てくるのを目撃してしまう 赤城が衣笠に気が付きつつも横を通り抜けようとしたとき、「なんで大湊なんかに来たの?」とタメ口で聞いてしまう それを聞いて赤城は振り向かず「人を……探しに来ました。」と答える その赤城の言葉を聞いて衣笠は、「それじゃ別にここじゃなくても、自由行動が認められてるんだから勝手に一人で探せばいいじゃない!」と声を荒げる 「それは……。」と赤城が口籠もっていたとき、深海強襲を知らせる警報が鳴り始める 樫野が執務室から出てきて「この大湊に敵襲ではなくて少し離れた港町に深海棲艦が向かってる、そこでは深海棲艦らしき4人組が深海棲艦を撃退しているというおかしな噂が流れているところで…」という樫野の言葉を聞いて、赤城は「まさか!?」と樫野と衣笠の前で驚愕した様子を見せる 赤城が樫野に「お願いします提督、私もその港町の方まで様子を見に出撃させてください!」と言い出す 衣笠は「そんな勝手なこと――」と窘めようとするが、赤城が「お願いします!」と切羽詰まった表情でいうのを見て、樫野が衣笠達と一緒にならと出撃命令を出す 衣笠を旗艦に、赤城、千代田、名取、駆逐2隻で小湊の港付近まで近づく 道中何事も無くどうなってるのか衣笠が考え始めると、直前に偵察用の艦載機を放っていた赤城が「女の子…?黒い刀……?」と声を荒げ始める どうしたの?と衣笠が赤城に聞くと、赤城は「この先の小湊の町に深海棲艦が強襲していたが、同じ深海棲艦のような4人がそれを撃退し、そして最後の駆逐艦をそこに居た小さな女の子が大きな黒い刀を振るってその駆逐艦を撃退した、残敵はない模様」と艦載機から知らせを受けたと答える それを聞いて衣笠は訝しむが、同行していた駆逐艦達からも急いで急行しなければと急かされ、向かおうとしたところでまた遠くからサイレンが鳴り響くのが聞こえる 来た方向とは逆の方向、つまり大湊の町の方に深海のはぐれ艦隊が向かっていると知らせを受ける それを聞いて赤城は、自分が単独で小湊に向かうと言い出すが、残敵は居ないのにそこに向かう必要はなくなったんだから大湊に向かう深海を殲滅する方が先だと突っぱねる 渋る赤城だったが、衣笠が私の指示に従うという約束だったはず!と言い放ち、唇を噛み締めながらも赤城は「……了解しました。」と、衣笠の指示に従い踵を返して大湊へと向かい始める 大湊近くまで戻ると、赤城は遠方から攻撃用の艦載機を放ち、大湊を強襲しようとしていた敵艦隊を瞬く間に制圧し跡形も無く沈めてしまう そんな赤城の圧倒的な戦力を見て大湊の艦娘達は、身体を震えさせ畏怖してしまう それを見て衣笠も「どうしてこんなに強い人が…前線で戦うことが宿命であるかのような人が、こんな大湊のような戦闘の少ない場所に来たの?」と胸中の疑問を深める 考えている内に、小湊の港で深海棲艦の4人組の噂話を聞いた時の赤城の取り乱しようを思い出し、その4人組と赤城が言っていた「人を探しに」という行動理由と関係があるのかもしれないと思い、「せっかく戻ってきたけど、もう一度小湊の町まで様子を見に行きましょう」と敬語で赤城にいう それを聞いて赤城は我先にと推進装置を起動させて、急いで向かおうとする 衣笠も単独行動はと窘めつつも、名取と駆逐二人を万が一のためにと大湊に待機させ千代田と二人でその後を追おうとする 三人が小湊の港に到着すると、もう辺りには何もなく静かな海が広がっていた その様子を見て赤城はとても悔しそうに俯き、「ミナトさん……」とつい口から溢してしまう 衣笠は赤城のその僅かな呟きを聞き逃さず、ミナトって誰の事なのかを問い出す 赤城は半ば無意識に「それは貴方に関係の無いことです……」と口にしてしまうが、すぐにハッとなり慌てて「申し訳ありません!」と水上で土下座をしそうな勢いで謝ろうとする 慌ててそれを止めようとする衣笠と千代田 止めながらも千代田が「小湊の町にいる深海棲艦4人組の話が何か貴方を慌てさせたんでしょ?だったらそれは私達にも関係がある」と赤城に再度尋ねる それを聞いて赤城は静かに「分かりました、じっくりお話しするために今は鎮守府に戻りましょう」と答える。 名取達留守番組も加えて、鎮守府内の談話室に集まった大湊艦隊所属の艦娘一同 提督にはまた改めて後で自分から話すから今は艦娘だけでと前置きしたあと、赤城は「もう7年程は経つでしょうか…」と自分の過去にあったことを語り始める その赤城からの話を聞いた衣笠は「赤城が自由行動出来る特権持ちなのにわざわざ所属先として大湊を選んだのは、僅かな目撃情報を追ってその4人を探すためだったの?」と尋ね、赤城はそれに頷いて答える 「私はその深海棲艦だった人の出産に立ち会い、そして子を成すのをその場で見て居た。だから彼女とその赤子がどうなったのかを知りたいのと同時に、本来は見守る対象である彼女達をその場の成り行きでこの海の何処かに解き放ってしまった責任がある」と辛そうな表情で溢す。 それを聞いて衣笠は、自分が今まで赤城に対して抱いてきた邪な感情を大いに悔やみ、そして申し訳ない気持ちで一杯になる そして衣笠は「赤城さん……今まで貴方に冷たい態度を取ってしまって本当に御免なさい!」と頭を下げて謝る その衣笠からの謝罪を受けて赤城はクスリと笑って「いいえ、愛しい殿方と別の女性が仲睦まじそうに見せつけられれば、穏やかでいられなくなるのは当然ですよ」と答える その赤城の言葉に動揺する衣笠は慌てて愛しいとかについて否定しようとするが、千代田を筆頭に周りに居た艦娘達からもバレバレだなんだと揶揄される そして赤城は「そんな貴方ならば、彼を守り通せると信じたから、私は衣笠さんをこの大湊に配属なさってはどうかと進言したんです」と衣笠に告げる それを聞いて衣笠は、自分を大湊に配属させるように進言した艦娘というのは赤城だったのだと知って、なんと言ったらいいのかも分からなくなり、目に涙を溢れさせながら一言静かに「ありがとうございます……」とお礼を伝える それから半年程が経過して、衣笠と赤城の仲もよくなり大湊鎮守府は艦娘が新しく二人加わったことで戦力も余裕が出てくる 赤城から「こんなご時世ですから、いつ何があるのかも分からない。気持ちは伝えておくべきです。自分にはそのように思える男性は居ないから、貴方が少し羨ましいです」と赤城に言われ、衣笠は自分の気持ちが恋愛感情だと自覚し始める 自分の樫野に対する思いを自覚しながらも、どう伝えたらいいのか分からず悶々とする毎日が続く 赤城は時間に余裕がある時には哨戒として数名の艦娘と共に小湊付近の海域に赴いているが、深海4人組と女の子の目撃情報は噂にも全く入ってこなくなり、赤城は少しずつ焦れ始める 諦めて帰ろうとするその途中で、衣笠は港の岬付近から真っ黒な服を着た小さな女の子が自分達を見て居る姿が目に留まり、そういえば半年前の時に赤城が偵察機からの無線で小さな女の子が何かをと呟いていたのを思い出し、「赤城さん、あそこに何か女の子が」と指を差すが、差した先には既に女の子が居なくなっていた。 「女の子がどうかしましたか?」と尋ねられるが、居なくなってしまっていて「いえ、なんでも……」と衣笠は首を傾げてその場を後にする。 それからまた半年の月日が流れ、衣笠と赤城が哨戒任務の報告で執務室に来ると、樫野が嬉々とした表情で衣笠を練度の高さが大本営から認められ、それを称えた勲章が与えられることが決まったと告げる それを聞いて赤城が「私もその勲章を所持しておりまして、そしてそれを所持していると言うことは艦娘としての功績が称えられることで、意中の殿方との婚姻のような関係を結ぶことが認められます」と告げる 赤城のその言葉を聞いて衣笠は「い、意中の……殿方!?」とリアクションしながら、無意識に樫野の方を見てしまう その衣笠の様子を見て樫野は「え、アオちゃんの意中の……って、僕なのか?」と驚く しまったと衣笠は大いに焦るが、真っ赤になって俯きながらも「だって私は……カッシーを護りたくって艦娘になったんだもの」と告白し、そして赤城も「そして彼女がこの大湊鎮守府に配属されたのも、彼女の熱望が叶った結果だったのですから」と告げて、樫野はそうだったのかと照れながら嬉しそうに笑う そんな二人の様子を見ながら赤城がドアの方に向かって、「貴方達も、文句はありませんでしょう?」と大きな声で発する それを聞いてドアがゆっくりと空き、大湊の艦娘達が「文句ないどころか、やっとかよって思ってますよ!」「焦れったくて仕方なかったこっちの身にもなってください」等と衣笠と樫野に向かって言う 大湊の艦娘達みんなに祝福される中で衣笠は、「私も君の……いえ、貴方の傍にずっと居たいですと、涙を目に浮かべながら告白する また1年が経過した後に、衣笠が大本営から『一定の練度に達した事を称える勲章』を授与され、ケッコン(仮)することが認められる そして樫野も今までの功績が認められて、昇進すると共に新しく室蘭の方に新設される鎮守府へと半年間派遣されることが決まる それが済んで大湊へと帰ってきたからケッコンしようと樫野からプロポーズされ、衣笠は照れて俯きながらもそれを承諾する そして樫野が室蘭へと派遣されてから二ヶ月程あと、司令官が不在の鎮守府は仮として赤城が指揮を執ることになり、樫野が帰ってくるのを待っている日々の最中 室蘭鎮守府で指揮を執っていた樫野が、突如として失踪し行方不明になっていることを告げられる その知らせを聞いて茫然自失となる衣笠 今すぐに室蘭に行き樫野を探すと飛び出しそうになる衣笠を、大湊の艦娘達が慌てて止める そんな渦中に新しく派遣されたという提督・和泉が現れ、勝手な真似はするなと一喝する その新任の提督の指揮が始まってから一ヶ月後 哨戒任務や訓練などをひっきりなしに行い休みや自由時間もろくに取らせない提督のやり方に嫌気が差して文句を言う衣笠に、和泉は「これくらい大本営ならば当たり前にこなす、今までどんな温い運営が行われていたのか知らんが甘ったれたことをぬかすな」と冷たい表情で告げる それを聞いて衣笠は赤城を探し、見つけて「赤城さんは大本営にいたんですよね?あちらではこんなにもハードな艦隊運営が行われていたの?」と問い、対し赤城は「確かに今までの大湊ほど、温和な雰囲気ではありませんでしたし、毎日の訓練や任務などがこちらより慌ただしかったのは事実です」と答える 「そうですか」と衣笠は答え、赤城はその場を後にする 一ヶ月前に飛び出して行こうとしたときに和泉から「もし無断で単独行動するような真似をするならば、今後一切大湊に所属することを認めんし、その行方不明者の情報など一切流れてこなくなることを覚悟しておけ」と言われたことを思い出す そのことに唇を噛みながらも衣笠は、午後の任務のことを思い出し足早に港へと向かう さらに一ヶ月が経過し、樫野の情報など全く入ってこないことに焦れる衣笠は、廊下で和泉と赤城が何かを言い合っている現場を目撃し、隠れて聞き耳を立ててしまう 「確かに貴方の艦隊指揮は大本営にも評価が高く、その指揮の下の艦娘達は戦果も上々と聞き及んでおります。ですが、海上を移動はせずとも人を探す自由くらいは与えられるべきと私は考えます。他の物事に気を取られていては任務の遂行も疎かになりますでしょう?」 「それは艦娘を一人、現状の艦隊から外すと言うことになる。もしそれで急を要して問題になったらどう責任を取るというんだ?」 「もちろん……こんなことを言い出す以上は私が責任をとります」 「ほぉ、どう責任を取ると言うんだ?」 「私が彼女の分まで、提督のご意志通り働きをこなしてみせること。そしてもし仮に責任問題ということになれば提督と彼女の受ける厳罰は私が全て甘んじて受けるとお約束致しましょう」 「そして、その場合は貴様が俺の専属として艦娘でいる間はずっと働いて貰おう。これが受け入れられるならば考えてやってもいい――」 「――いいでしょう、それくらいは当然承諾致します」と和泉の案に赤城は即答する 赤城のその言葉を聞いて衣笠は自分の事だと悟り、いてもたってもいられなくなり思わず飛び出して「そんなことはダメぇ!」と二人に向かって叫ぶ 衣笠からの叫びに赤城は「私はもう絶対に、離ればなれになる人など見て居たくありませんから」と覚悟を決めた決意の表情で答える 衣笠は一人汽車に乗り揺られながら、鎮守府を旅立つ前に赤城から言われたことを思い出す 「私のことはどうかお気になさらないでください、こちらのことは私に任せていただいて大丈夫ですから。」と笑顔で送り出され、自分は絶対に樫野を見つけて帰らなきゃ赤城さんにもみんなにも申し訳ないと目に涙を溜めながら心の中で謝る 室蘭に到着した衣笠は早速鎮守府へと向かい、着いたその場で基地の状況を目撃して唖然とする その鎮守府はすでに建物から半壊しており、人が居る気配がないことを本能的に悟る これではもう樫野が見つかる可能性なんて……と悲観に暮れそうになる衣笠の前に、一人の女性が現れて衣笠に話しかけてくる 「この鎮守府は二ヶ月前、突如巻き起こった深海棲艦同士の争いに巻き込まれて建物はこんなことになってしまった。艦娘達はなんとか難を逃れたけど、指揮していた提督は重傷を負って病院へと運ばれたの」 「その病院というのは何処!?」 「ここから少し離れた軍用の病院だったのだけど、病院に運び込まれてから一週間後くらいにいなくなってしまって、行方が分からなくなってしまったの」と告げる そこまで話を聞いて衣笠は、重傷を負ってはいるけど病院に運ばれて少なくとも一週間はその場でしっかり生きていたということ。そして居なくなった先は分からなくても、現在も生きている可能性は充分にある。ならば自分が取れる道は――。 衣笠は心の中で決意を固め、それを教えてくれた女性に「あなたは?」と尋ねると、その女性は「私も、その室蘭鎮守府に居た艦娘の一人だったんです」と答える それから二ヶ月、衣笠は軍の施設などでの情報を頼りに懸命に樫野の行方を捜そうとするが、全く影も形も足取りさえも掴めず徒労に終わる これが最後と立ち寄った施設の中で、衣笠が言う容姿と似たような男を内地の軍施設で見かけたという人物を発見し話を聞く そのことを知らせようと衣笠は定期連絡で赤城に電話をしようとするが何故か繋がらない 衣笠は室蘭へと戻り、すぐにその話を赤城に伝えようと探すが鎮守府には誰もおらずもぬけの殻になっている 一体どういうことなのかと慌てる衣笠の前に赤城が現れる 「大本営からの指示により、この大湊とは別の場所に新しく基地が創設されて、艦娘共々そちらに移籍することが決められました」と衣笠に告げる どういうことかと驚愕する衣笠に赤城は「今、津軽海峡付近では深海棲艦の動きが活発になっていて、とても大湊だけの戦力ではそれを制圧することができなくなってきたのでしょう。ですから一度北の一部分に戦力を集結させてそれを一気に鎮圧することに決まったのだと思われます」と推測を語る それを聞いて衣笠は、自分が見聞きしてきたことを赤城に伝え、そして決めたことを赤城に語る (モノローグ) あれから三年―― 大湊鎮守府は放置されたまま、こことは別の場所に出来た基地で赤城を筆頭に強力な艦娘達が集結し北付近で起きていた『深海棲艦同士の争い』で巻き起こっていた戦闘を鎮圧し、北の海に一時の平和をもたらした 自分はといえば、あれからもこの大湊の地に残り、少し遠出しては樫野の消息を追い求めつつもまた大湊の町に帰ってくる毎日を続けている 一度有力な情報が見つかったかと思えば、それはまた誤情報でがっかりしたりだったけど、絶対に望みは捨てないと誓ってる あれからも赤城さんは大湊の自分の住所に時々手紙をくれて、目撃情報などを逐一知らせて、そして自分でも全国を飛び回る勢いで探してくれている。彼女にはどれだけお礼を言っても足りない、だから自分は代わりに深海棲艦4人組と女の子の話を聞いたら、すぐに赤城に知らせると約束している。お互いに探し人が見つかることを願いながら。 今も私は、彼が好きだったこの大湊の町を一人で護っている。